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東京地方裁判所 平成3年(行ウ)257号 判決 1994年4月27日

東京都江戸川区江戸川五丁目一番地四-二〇九

原告

上原延男

右訴訟代理人弁護士

山下義則

東京都江戸川区平井一丁目一六番一一号

被告

江戸川税務署長 小髙正己

右指定代理人

秋山仁美

川名克也

近江紳二

竹下徹

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が平成二年三月七日付けでした次の各処分を取り消す。

一  昭和六一年分の所得税の更正のうち、所得金額四五万三七二九円、納付すべき税額〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

二  昭和六二年分の所得税の更正のうち、所得金額一五八万一三九六円、納付すべき税額一一万六三〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

三  昭和六三年分の所得税の更正のうち、所得金額一六〇万八一二六円、納付すべき税額一〇万八九〇〇円を超える部分及び過少申告加算税賦課決定

第二事案の概要

本件は、赤帽南葛急便の名称で軽貨物運送業を営む白色申告者である原告が、昭和六一年分から昭和六三年分まで(以下「本件係争年分」という。)の所得税について、確定申告をしたところ、被告が、原告の売上金額を基に同業者比率によって原告の事業所得金額を推計して、更正及び過少申告加算税賦課決定を行ったので、原告が、被告の課税処分には推計の必要性も合理性もなく、被告が推計により算出した事業所得金額は原告の実際の所得金額を上回っているとして事業所得金額の実額を主張し、右各更正のうち申告額及び主張額を超える部分並びに右各賦課決定の取消しを求めている事案である。

一  本件課税処分の経緯(この事実は当事者間に争いがない。)

原告の本件係争年分の各所得税の確定申告、課税処分及び不服申立ての経緯については、別表一から三までのとおりである(以下、本件係争年分の更正及び過少申告加算税賦課決定を総称して「本件各更正」及び「本件各賦課決定」という。)。

二  本件各更正及び本件各賦課決定の課税根拠についての被告の主張

1  本件係争年分の総所得金額及びその算出根拠

被告は、原告が軽貨物運送(赤帽)業を営むものであるとして、次のとおり、推計の方法によりその額を算出した。

(一) 昭和六一年分 四四五万六七三一円

(1) 総収入金額(売上金額) 九二二万三三六八円

右金額は、被告が原告の取引先等の調査によって把握した同年分の売上金額であり、その内訳は別表四の昭和六一年分の被告主張額欄記載のとおりである。

(2) 特前所得金額 四四五万六七三一円

右金額は、原告の昭和六一年分の総収入金額(売上金額)に、原告と同業を営み、かつ、原告と規模の類似する者(以下「比準同業者」という。)の同年の総収入金額に対する特前所得(青色特典控除前の所得金額をいい、総収入金額から原価、一般経費及び特別経費の額を控除した所得金額をいう。)金額の割合の平均値(以下「平均特前所得率」という。)である四八・三二パーセント(別表五の一のとおり)を乗じて算出した金額である。

(3) 事業所得金額 四四五万六七三一円

右金額は、(2)の金額と同額である。

(二) 昭和六二年分 五三五万九四四七円

右金額を算出するために用いた推計の方法は、昭和六一年分の方法と同様である。

(1) 総収入金額(売上金額) 一一八三万一〇一〇円

右金額の内訳は別表四の昭和六二年分の被告主張額欄記載のとおりである。

(2) 特前所得金額 五三五万九四四七円

同年分の平均特前所得率は、四五・三〇パーセント(別表五の二のとおり)である。

(3) 事業所得金額 五三五万九四四七円

右金額は、(2)の金額と同額である。

(三) 昭和六三年分 六六三万六二九二円

(1) 総収入金額(売上金額) 一五六二万五八三五円

右金額の内訳は別表四の昭和六三年分の被告主張額欄記載のとおりである。

(2) 特前所得金額 六六三万六二九二円

同年分の平均特前所得率は、四二・四七パーセント(別表五の三のとおり)である。

(3) 事業所得金額 六六三万六二九二円

右金額は、(2)の金額と同額である。

2  本件各更正の適法性

本件各更正における原告の総所得金額は、いずれも右1の本件係争年分の原告の事業所得金額の範囲内であるから、本件各更正は適法である(なお、本件各更正における総所得金額を前提とした税額の計算自体については当事者間に争いがない。)。

3  本件各賦課決定の適法性

被告は、本件各更正によって原告が納付すべき所得税額(国税通則法一一八条三項により一万円未満の金額を切り捨てた金額、以下同じ。)を基礎として、国税通則法六五条一項及び二項(ただし、昭和六一年分については、昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)の規定に基づき、原告が新たに納付すべき各税額に一〇〇分の一〇(ただし、昭和六一年分については、一〇〇分の五)を乗じた金額と、右各税額のうち五〇万円を超える金額に一〇〇分の五を乗じた金額の合計額をそれぞれ過少申告加算税額として本件各賦課決定を行ったものであり、本件各賦課決定は適法である。

三  争点

本件においては、本件各更正及び各賦課決定の適法性が争われているが、本件の争点及び争点に関する当事者双方の主張の要旨は以下のとおりである。

1  推計の必要性について

(一) 被告の主張

被告は、原告の本件係争年分の所得税の確定申告につき、収入金額に比して所得金額が低調と認められたことから、被告所部職員に原告の本件係争年分の所得税の調査(以下「本件調査」という。)を命じ、被告所部職員は、平成元年八月一〇日に原告宅を訪れて以来、再三、原告宅を訪問し、あるいは電話等により調査協力を要請し、帳簿書類等の提示を求めたが、原告は、帳簿書類の提示に応ぜず、自らの事業所得の計算根拠を何ら明らかにしないばかりか、調査日時を自ら指定しながら約束を反故にして所部職員に会おうともせず、調査に協力する姿勢は全く認められなかった。このような状況下では、被告は、原告の所得金額を実額で把握することができず、原告の所得金額を推計の方法によって認定する必要があった。

(二) 原告の主張

原告は、業務に関して運転日報を作成し、金銭出納帳、経費明細帳等を備え付け、領収書等の資料を保存しており、かつ、被告担当職員が一方的に指定した調査期日に調査に応じられなかったことはあっても、被告の調査を故意に拒絶したことはない。したがって、被告は、実額による課税をすることが十分に可能であったものであるから、推計の必要性がないことは明らかである。

2  推計の合理性について

(一) 被告の主張

(1) 被告の推計の方法は前記のとおり、被告が原告の取引先に対する反面調査等によって把握した売上金額に比準同業者の平均特前所得率を乗じてその特前所得金額及び事業所得金額を算出したものである。

(2) 比準同業者は、原告の事業所得を管轄する江戸川税務署及びこれに隣接する五税務署の管内に住所及び事業所を有する軽貨物運送(赤帽)業を営む事業者のうち、本件係争年分の各年分ごとに次のすべての条件(以下「本件抽出基準」という。)を満たす者(以下「本件比準同業者」という。)を抽出した。

ア 軽貨物運送(赤帽)業のみを営む個人事業者

イ 本件係争年分において、青色申告の承認を受け、青色申告決算書を提出している者

ウ 年を通じて軽貨物運送(赤帽)業を継続している者

エ 本件係争年分の総収入金額(売上金額)が原告のそれの半分以上、二倍以下の範囲内である者

オ 人件費(専従者給与を除く。)の支払のある者

カ 専従者給与の支払のない者

キ 災害等により経営状態が異常であると認められる者以外の者

ク 税務署長から更正又は決定処分を受けている者については、当該処分について国税通則法又は行政事件訴訟法の規定による不服申立期間及び出訴期間が経過している者で当該処分に対して不服申立てをしていない者又は訴訟中でない者

(3) 被告は、本件比準同業者の抽出に当たっては、本件抽出基準を満たす者を遺漏なく抽出しており、恣意の介在する余地はなく、また、原告の業態に類似する者を抽出した本件抽出基準は合理的である。

(二) 原告の主張

被告の抽出した本件比準同業者の数は、昭和六一年分、昭和六二年分は六件、昭和六三年分は四件であり、赤帽軽自動車運送協同組合加入組合員の数に比して少な過ぎ、その程度の員数の平均特前所得率による推計は合理性を欠くというべきである。

また、軽貨物運送業は、人件費と燃料費その他の車両関係費が経費の大部分を占めるものであるが、それ以外の間接的な経費も重要な部分を占め、営業規模、経営内容によって重大な影響を受けるものであるところ、被告の抽出基準は、単に売上金額と人件費を考慮したにすぎないものであり、本件比準同業者の具体的な営業規模、経営内容は何ら明らかではなく、原告の営業規模、経営内容との類似性については、売上金額と人件費を除き何ら考慮されていない。

さらに、原告の売上は、いわゆる定期運送の占める割合が極めて大きいところ、定期運送においては、得意先に対し安定かつ安全な輸送業務を提供する必要から代替車両の常備、運転業務者の確保等を要し、不定期運送に比較して多額の経費の支出を必要とするものであるから、運送業者の純利益率は、定期運送の占める割合が大きいほど減少することになる。しかしながら、被告はこの点を何ら考慮していない。

したがって、本件比準同業者の平均特前所得率による推計は合理性を欠くというべきである。

3  原告の本件係争年分の収入金額及び必要経費の実額

(一) 原告の主張

原告の本件係争年分の収入金額及び必要経費の実額は、別表四の本件係争年分の各原告主張額欄及び別表六に記載のとおりであり、これによれば、原告の本件係争年分の事業所得金額は、昭和六一年分は、四五万三七二九円、昭和六二年分は、一五八万一三九六円、昭和六三年分は、一六〇万八一二六円である。

(二) 被告の主張

納税者が、推計課税に対して実額反証をするためには、伝票などの原始資料によってその主張する実額が真実の所得金額と合致することを合理的疑いをいれない程度に立証しなければならず、必要経費の実額の主張のみならず、その主張する収入金額(売上金額)が収入金額の総額であり、これを上回る収入のないことをも具体的に立証して計上漏れの疑いを払拭することを要するところ、原告が本訴において提出した帳簿類等の資料は、その主張する実額を根拠付けるものとして極めて不十分であるといわざるを得ない。

すなわち、原告が売上金額を裏付ける資料として提出した売上帳、請求書及びスポット伝票の控え(以下「請求書等控え」ということがある。)並びに金銭出納帳には、そこに記載されている売上に対応する請求書等控えがないものや、請求書等控えがあるのに売上帳に記載されていないもの、売上帳及び請求書等控え記載の売上金額と原告主張の売上金額が不一致のもの等があること、原告が提出した請求書等控えには一連番号が付番されているものがあるが、右一連番号からみると、本訴において提出されている請求書等控えには欠番があり、すべての請求書等控えが提出されたものではないと考えられること、金銭出納帳には、銀行振込や小切手で回収された売上が記載されている年と記載されていない年があり、金銭出納帳には売上金額がすべて記載されているとの原告主張は明らかに誤っていること等からすれば、原告の提出した資料によって、原告の真実の売上金額すべてを把握することは不可能である。

また、原告が必要経費を裏付ける資料として提出した金銭出納帳、請求書及び領収書には、金銭出納帳には必要経費として記帳されているにもかかわらず、これを裏付ける領収証、請求書等の原始資料が提出されていないものや、原始資料の日付や金額と金銭出納帳の記載と齟齬があるものがあるなど、右金銭出納帳が原始資料に基づき日々の取引をその都度正確に記載したものとは到底認められない。

そして、原告主張の収入金額が収入の全部であることの立証がなされていない本件においては、いずれにしても、原告の実額主張は理由がないというべきである。

第三争点に対する判断

一  争点1(推計の必要性)について

1  証拠(証人山本照幸の証言、原告本人尋問の結果)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 原告は、被告に対し、本件係争年分の所得税について、いわゆる白色申告書をもって確定申告をしたが、被告は、原告の右確定申告について、収入金額に比して所得金額が低調と認められたことから、被告所部職員である山本照幸調査官(以下「山本係官」という。)に本件調査を命じた。

(二) 山本係官は、平成元年八月一〇日、本件調査のために原告宅に赴いたが、原告が留守であったため、本件調査に訪れたこと、同月二一日に再度訪問する予定であるので、当日都合が悪ければ、同月一五日から一七日までの間に連絡をくれるよう依頼する旨のメモを差し置いて辞去した。

(三) 平成元年八月一一日ころ、右メモをみた原告から山本係官あてに電話があったが、同係官は不在であり、他の係官が電話を受けたところ、原告から、同月一五日から一七日までの間であれば都合がつくので、どの日がよいか原告か原告の姉あてに電話をくれるように、また、それ以外であれば勝手に調査をするようにとの話があって電話が切れた。

(四) 平成元年八月一五日に、原告からの連絡を知った山本係官は、同日、午前中に原告に電話連絡を取ろうとしたが、応答がないため、原告の姉に連絡して、原告から電話をくれるように依頼した。その後、原告から山本係官に電話が入ったが、調査日の調整がつかず、いったん電話が切られ、翌一六日午前中に、原告から同日午後一時に来てくれとの電話があった。

山本係官は、指定された同日午後一時に原告宅を訪れたが、原告からの応答はなく、同係官がその後一時間にわたって、原告宅のベルを押したり、ドアを叩くなどしたが、原告は現れなかった。そこで、同係官は、原告宅に、同日原告宅を訪問したこと、次回調査日をいつにするかについて連絡をくれるよう依頼する旨のメモを差し置いて辞去した。

同日午後五時ころ、原告から山本係官に電話があり、原告は、家の中にいたが居眠りをしてしまったため来訪に気づかず、申し訳なかった旨を申し述べた。そこで、山本係官が、今日のことは済んだことであるから、次回は帳簿を見せてほしいと述べて、次回調査日の都合を聞くと、原告は、九月の第一土曜日か第三土曜日がよいというので、次回調査日は、第一土曜日である九月二日に決まった。その後、原告がなぜ起こさなかったのかという趣旨のことを言い出し、話が混乱し始め、結局、原告が勝手に調査しろというようなことを言って、電話が切られた。

(五) 山本係官は、同年九月二日午前一〇時ころ、原告宅に赴き、玄関のベルを押したり、ドアを叩いたりしたが、応答がなく、近くの公衆電話から電話をするなどしても応答がなかった。そこで、同係官は、調査について原告の協力が得られないものと判断し、右日時に所得税の調査で来訪したこと、調査に対する協力と理解が得られないので、税務署独自の調査に移行すること、更に原告からの連絡を待っていることを記載したメモを差し置いて原告宅を辞去したが、その後、原告からの連絡はなかった。

(六) その後、山本係官は、推計による所得金額の算定結果の説明等のために、原告宅に電話をしたが応答はなく、原告の姉に電話して、原告から電話をくれるように依頼するなどしたが、原告からは何の連絡もなかった。

以上の事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

なお、原告は、平成元年九月二日は、得意先の社員旅行に招待されており、この日を調査日とする約束はしておらず、調査日は同月一六日の約束であった旨主張し、原告本人尋問の結果中にもこれにそう供述部分がある。しかしながら、前記認定のとおり、山本係官が同月二日に原告宅に赴いていることは明らかであること、原告本人尋問の結果中には、同日のメモの差し置きにつき、当初は、何もなかった旨供述しながら、九月の三日か四日に差し置かれたメモを見て、九月二日の山本係官の来訪を知った旨供述するなど矛盾する部分があること、そして、原告は、右メモを見たといいながら、その内容は覚えていないし、これを見て特に連絡をとる等はしていないなど不自然な部分があること、また、原告は、その後も調査日は九月一六日と思っていたかのような供述をしているが、右メモを見ながら、なお、九月一六日の約束であると考えること自体不自然であること、さらに、九月一六日の約束については、時間は特に決まっていなかったといいながら、原告は、同日午後二時には仕事に出掛けており、同日に山本係官の来訪がなかったにもかかわらず、これについて何の連絡も取っていないことも不自然であるといわざるを得ないこと等、その内容には、曖昧で不自然な部分もあることに照らせば、原告の右供述部分は直ちには信用できないといわざるを得ない。

2  右認定事実によれば、本件調査に際して、山本係官は、平成元年八月一〇日以降、三回にわたって、原告宅に臨場し、うち二回については、原告が指定した日であるにもかかわらず、原告に会うことができず、同年九月二日には、連絡を要請する等を記載したメモを差し置いたにもかかわらず、原告からは何らの連絡もなく、その後、推計による所得金額の算定結果の説明等のため連絡を要請した際も、原告からは何の連絡もないなど、原告には、本件調査に協力する姿勢がみられなかったということができる。

そうすると、被告が、原告の事業所得金額について、原告に対する質問調査等によってこれを把握することが困難であると判断して、独自の調査を行い、その結果を基に推計の方法によって右金額を算出したことは、やむを得なかったものであると認めることができるから、本件において、推計の必要性はあるものというべきである。

二  争点2(推計の合理性)について

1  被告は、原告の業種を軽貨物運送(赤帽)業とした上、被告が原告の取引先に対する反面調査等によって把握した売上金額を総収入金額として、これに基づき、比準同業者の平均特前所得率を用いて、原告の特前所得金額及び事業所得金額を算出している。

2  そこで、以下、右の推計方法の合理性について検討する。

(一) 証拠(証人川畑周悦の証言、乙一ないし六号証の各一ないし四、三五ないし四〇号証の各一ないし四)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

被告は、本訴において、比準同業者として、原告の住所及び事業所を管轄する江戸川税務署並びに同署に隣接する江東西税務署、江東東税務署、向島税務署、葛飾税務署及び市川税務署の五税務署(以下、まとめて「本件各税務署」ということがある。)の管内に住所及び事業所を有し、かつ、軽貨物運送(赤帽)業を営む事業者の中から、本件係争年分の各年分ごとに、本件抽出基準に該当する者を抽出することにした。右抽出に当たっては、業種別名簿、確定申告書、青色申告決算書、不服申立等整理簿等を用いて、機械的に本件抽出基準に該当する者をすべて抽出した。

なお、被告は、原告の総収入金額(売上金額)については、当初、昭和六一年分は九五〇万五五七八円、昭和六二年分は一一九一万九〇一〇円、昭和六三年分は一五六四万四四〇七円であると主張しており、本件抽出基準のうち、総収入金額が原告の半分以上、二倍以下というエの基準(以下「倍半基準」ということがある。)については、右金額を基準として、その総収入金額が、昭和六一年分については、四七五万二七八九円以上で一九〇一万一一五六円以下の、昭和六二年分については、五九五万九五〇五円以上で二三八三万八〇二〇円以下の、昭和六三年分については、七八二万二二〇四円以上で三一二八万八八一四円以下の各範囲内にある者が対象とされた。

右作業の結果、別表五の一から三までの対象者の記号欄に記号で表示してある本件比準同業者が抽出され(昭和六一年分、昭和六二年分は各六件、昭和六三年分は四件)、被告は、同表記載のとおり、その総収入金額、必要経費の額等を把握して、その特前所得率を算出した。

その後、被告は、本訴における証拠調べ等から、原告の総収入金額については、前記第二の二1記載のとおりに変更し、倍半基準については、その総収入金額が、昭和六一年分は四六一万一六八四円以上で一八四四万六七三六円以下の、昭和六二年分は五九一万五五〇五円以上で二三六六万二〇二〇円以下の、昭和六三年分は七八一万二九一八円以上で三一二五万一六七〇円以下の各範囲内にある者を対象とし、本件各税務署の管内に住所及び事業所を有し、かつ、軽貨物運送(赤帽)業を営む事業者の中から、本件抽出基準どおりに再度抽出を行ったが、別表五の一から三まで記載の各同業者が再び抽出される結果となった。

以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(二) 以上によれば、本件抽出基準は、業種及び業態の同一性、事業所等の近接性並びに事業規模の近似性等の点において、同業者の類似性を判別する要件として合理的なものといえる。また、被告は、本件抽出基準に該当する者のすべてを抽出したものであって、その抽出過程に被告の恣意等が介在する余地も認められない。さらに、本件比準同業者は、いずれも帳簿等の書類の裏付けを有する青色申告者であって、経営状態が異常であると認められる者や更正等に対して不服申立て等をしている者が除外されていることに照らすと、その必要経費等の算出根拠となる資料の正確性も担保されているということができる。そして、本件比準同業者の数は、いずれも同業者の個別性を平均化するに足りるものであるということができる。

したがって、被告の推計方法には合理性があるというべきである。

(三) これに対し、原告は、被告の比準同業者の抽出件数は、赤帽軽自動車運送協同組合加入組合員の数に比して少なすぎる旨主張する。

なるほど、甲二八ないし三〇号証の赤帽軽自動車運送協同組合の城東支部組合員名簿によれば、江戸川地区の組合員だけでも、一五〇人前後いることが認められる。しかしながら、同名簿によれば、右組合員には、法人化されている者も含まれており、また、個人事業者とみられる組合員のほとんどは、その保有車両台数が一台であり、そのような場合は営業がほぼ事業者一人で行われていることは原告も認めるところである。そうすると、人件費の支払の有無や総収入金額によって、業態及び事業規模の類似性を考慮した本件抽出基準によって抽出した場合には、右組合員数に比べて抽出件数が少なくなることには何ら不合理な点はなく、むしろ、本件比準同業者は、原告のように数台の車両を保有し、人を雇用して営業を行っている事業者に類似した同業者が抽出されたものとみることができるのであって、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、原告の営業形態は定期運送の占める割合が高いところ、定期運送は、整備、故障等に備えて代替車両や運転業務者の確保等を要し、不定期運送に比較して多額の経費の支出を必要とするものであるから、運送業者の純利益率は、定期運送の占める割合が大きいほど減少することになるのに、この点を考慮していない被告の推計方法は不合理である旨主張する。

しかしながら、推計による課税は、納税者の所得金額が直接資料によって把握することができない場合に、やむを得ず間接資料によって推計した金額をもって真実の所得金額に近似するものとして認定し、課税するものであるところ、原告と比準同業者の類似性を過度に要求することは、推計の方法による課税自体を不可能にすることになりかねず、所得税法が推計による課税を認めている以上、業種・業態、事業所の近接性、事業規模等の基本的な要因において比準同業者の抽出が合理的であれば、比準同業者間に通常存在する程度の個別的な営業諸条件の差異は、それが推計を不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、その平均特前所得率等を算出する過程で捨象されるものというべきである。

そして、原告がその特殊事情として主張する定期運送と不定期運送の割合の差異は、比準同業者間に通常存在する程度のものにすぎないというべきである(原告は、車両一台をもって一人で営業する同業者との対比での差異をいうようであるが、そうした営業形態の同業者は本件抽出基準により排除されていると考えられることは前記のとおりである。)。さらに、原告が定期運送の特殊性として主張する代替車両ないし運転業務者の確保等が不定期運送との比較でその必要経費率等にどのような影響を与えるかは明らかではないといわざるを得ない。すなわち、代替車両ないし運転業務者の確保が、それ自体全く稼働していない予備車両ないし予備人員の確保というものでない以上、これによって、直ちに、収入に比して必要経費の支出が多くなるということはできないのであり、また、いわゆる定期運送は、不定期運送に比べ、安定的かつ効率的に多額の収入を得ることができるのであるから、定期運送が不定期運送に比べて、直ちにその純利益率が低下するような営業形態であるということはできない。なお、原告本人尋問の結果中及び甲二五号証の記載には、定期運送に係る合資会社五十鈴商会(以下「五十鈴商会」という。)分の荒利益率等を算出すると五〇パーセント前後になる旨の供述部分及び記載部分があるが、右算出方法等は原告独自のものであって、これをもって、定期運送の利益率が低いということはできない(原告は、右算出に当たっては、五十鈴商会分の定期運送については、車両二台を専用に使っていたとし、右車両に関する燃料費、駐車料金等をすべて五十鈴商会分の収入に係る経費としているところ、二台の車両を五十鈴商会専用に使っていたことを認めるに足りる証拠はなく、甲二二及び二三号証によれば、平成元年においては、五十鈴商会の定期運送に使用されている車両により五十鈴商会分以外の運送もなされていることがうかがわれる。)。

したがって、いずれにしても、原告の主張する右事情をもって、推計自体を不合理ならしめるような特殊事情であるということはできず、原告の右主張も採用できない。

なお、原告は、本件抽出基準は、原告の営業規模、経営内容との類似性については、売上金額と人件費を除き何ら考慮されていない旨主張する。原告が考慮すべきであると主張する営業規模ないし経営内容の類似性が、いかなることを意味するかは必ずしも明らかではないが、営業規模については、倍半基準等により考慮されていることは前記のとおりであり、経営内容について原告の主張するところが、定期運送の割合が高いことであるとすれば、これをもって、推計を不合理ならしめる特殊事情といえないことは前記のとおりである。

(四) 以上によれば、原告の主張はいずれも理由がなく、被告の推計方法は合理的であるといえる。

3  そして、被告の主張する推計方法によれば、次の金額が算出される。

(一) 推計の基礎となる原告の本件係争年分の総収入金額(売上金額)

(1) 昭和六一年分について

当該年分の売上金額については、少なくとも被告主張に係る売上金額があることには当事者間に争いがない(なお、五十鈴商会分、株式会社木田屋商店分及び吉崎商店分については、原告は被告主張額より多い売上金額を主張しているが、少なくとも被告主張の取引に係る売上金額があること自体は争いがない。)。

(2) 昭和六二年分について

当該年分の売上金額については、赤帽城東支部分を除いて、少なくとも被告主張に係る売上金額があることは当事者間に争いがない(なお、吉崎商店分については、原告は被告主張額より多い売上金額を主張しているが、少なくとも被告主張の取引に係る売上金額があること自体は争いがない。)。

赤帽城東支部分については、乙一八号証の一ないし三九によれば、被告主張どおり、六五万八〇八〇円の売上金額があることが認められる。原告は、当該年分の赤帽城東支部分の売上金額は五四万五四四〇円であると主張しているが、その根拠は必ずしも明確ではなく、右認定を覆すに足りる証拠はないというべきである。

(3) 昭和六三年分について

当該年分の売上金額については、赤帽城東支部分、佐川急便近藤分を除いて、少なくとも被告主張に係る売上金額があることは当事者間に争いがない。

赤帽城東支部分については、乙一八号証の一ないし三九によれば、被告主張どおり、五一万五六〇五円の売上金額があることが認められる。原告は、当該年分の赤帽城東支部分の売上金額は五〇万五五六五円であると主張しているが、その根拠は必ずしも明確ではなく、右認定を覆すに足りる証拠はないというべきである。

佐川急便近藤分については、甲一四号証の七、一五号証及び乙二七号証によれば、昭和六三年一月一九日に、原告の普通預金口座に佐川急便近藤と思われる名義で四〇〇〇円の振込入金がなされていることが認められるが、一方、甲一一号証の一二及び一八並びに一三号証の一二九によれば、昭和六二年九月二三日付けで、佐川急便墨東店近藤様と記載されたスポット伝票が作成されており、また、原告の売上帳の昭和六二年の一般・スポットと題する頁の九月二三日欄に、「佐川急便、四〇〇〇円、62・12・31未収」との記載がされ、昭和六三年のスポット運送と題する頁の一月一九日欄に、「佐川急便墨東店、振込、SP、9/23日分、四〇〇〇」との記載がされていることが認められる。以上の事実によれば、被告が昭和六三年分の売上であると主張する佐川急便近藤分については、その入金は、昭和六三年にされているものの、その取引自体は昭和六二年にされたものであることが推認でき、被告の主張に係る売上金額のうち、佐川急便近藤分の四〇〇〇円については、昭和六三年分の売上金額であると認めることができないというべきである。

以上によれば、昭和六三年分については、少なくとも、右四〇〇〇円を除いた一五六二万一八三五円の売上金額があることが認められる。

(二) 本件係争年分の事業所得金額

本件抽出基準及び本件比準同業者の平均特前所得率を用いた推計方法が合理的であることは前記のとおりである。

なお、昭和六三年分については、右のとおり、推計の基礎となる原告の総収入金額が、四〇〇〇円減少し、一五六二万一八三五円となることになるが、本件比準同業者の総収入金額は、いずれも右金額の倍半基準の範囲内にあり、右金額の変更が四〇〇〇円というわずかなものであること、前記のとおり、被告が総収入金額の主張額を変更して再抽出した際にも、本件比準同業者には変動がなかったこと等に照らせば、本件比準同業者の平均特前所得率を用いて原告の所得金額を推計することには、なお、合理性があるというべきである。

そして、前記認定の原告の本件係争年分の総収入金額を基に、本件比準同業者の平均特前所得率を用いて、原告の本件係争年分の特前所得金額及び事業所得金額を算出すると、以下の金額が算出される。

昭和六一年分 四四五万六七三一円

昭和六二年分 五三五万九四四七円

昭和六三年分 六六三万四五九三円

三  争点3(原告の本件係争年分の実額による事業所得金額)について

1  被告の主張する推計課税に対して、原告は、本件係争年分の総収入金額及び必要経費の実額は、別表四の本件係争年分の原告主張額欄及び別表六記載のとおりである旨主張する。

(一) そこで、検討するに、被告の推計課税に対して、原告が実額による課税をすべき旨を主張する場合、原告は、その収入金額及び必要経費の実額のいずれをも立証する必要があるところ、仮に、原告が主張する収入金額の全部又は一部が立証でき、あるいは、当事者間に争いのない部分があったとしても、その必要経費を実額で主張する場合には、それが、右収入金額に対応するものであることを立証しなければならないというべきである。すなわち、所得税法三七条一項は、所得の計算上必要経費の額に算入すべき金額は、所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るために直接要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。右規定に照らせば、原告は、必要経費の実額を主張して被告の推計額を争う場合には、原告の主張に係る必要経費が当該係争年分の総収入金額と対応するものであることについて、合理的な疑いを入れない程度に立証する必要があるものというべきであり、原告は自らが主張する収入金額が原告の当該係争年分のすべての取引から生じたすべての収入(以下「総収入」という。)であることを主張、立証して、その期間内に支出した必要経費との対応関係を立証するか、あるいは、自らが主張する必要経費とその収入とが、個別的に対応するものであることを主張、立証しなければならないものというべきである。

もっとも、原告が主張する売上金額に捕捉漏れがあることが必ずしもうかがわれず、かつ、原告が主張する収入及び必要経費の金額を基に算出した所得率等が、比準同業者の右比率の平均値に近似するような場合には、経験則上、原告が自ら主張する収入金額が原告の総収入によるものであることが推認されるといえるから、具体的な立証の要否という点からいえば、原告は、改めて前記のような対応関係を立証することまでは要しないというべきである。

(二) 以上のような観点から本件をみると、原告は、本件係争年分の総収入金額として、被告の主張する額よりも高い額を主張しており、少なくとも、被告が把握した収入金額に捕捉漏れがあることは、原告の主張自体から明らかであり、また、原告の主張する総収入金額及び必要経費の実額に基づいて、特前所得率を求めると、昭和六一年分は約四・八〇パーセント、昭和六二年分は約一三・一七パーセント、昭和六三年分は約一〇・一三パーセントとなり、右数値は、本件比準同業者の特前所得率に比し、異常に低い数値であるといえる。

そうすると、本件においては、原告は、その主張する必要経費と収入金額との対応関係について、これを具体的に立証する必要があるというべきである。

(三) 原告は、その主張する収入金額が、原告の総収入である旨主張し、その証拠として、売上帳(甲一一号証の一ないし二四)、金銭出納帳(甲四ないし六号証)及び請求書等控え(甲一二号証の一ないし一〇二、一三号証の一ないし一七八)を提出している。

しかしながら、甲一一号証の一ないし二四によれば、右売上帳に記帳されている取引金額には、原告が主張している収入金額と必ずしも一致していないものが多数あり(昭和六一年分の東洋化工株式会社、寺崎商店、花畑運送及び艸文社との各取引に係る分、昭和六二年分の赤帽城東支部、吉崎商店、寺崎商店及び宮岸製作所との各取引に係る分、昭和六三年分の赤帽城東支部、株式会社ダイヤチタニットセンター、寺崎商店、鈴木製作所及び杉田金商との各取引に係る分等)、また、原告が主張している収入金額には売上帳に記帳されていないものがある(昭和六一年分のキムラ運輸有限会社、赤帽城東支部及び宮本との各取引に係る分、昭和六二年分の藤沢総合整備株式会社との取引に係る分、昭和六三年分の株式会社ナガトモ・サービス及び佐藤幸枝との各取引に係る分)一方、売上帳には記帳されていながら、原告が売上として主張していることが明確でないものもあることが認められる。

また、原告本人尋問中には、右売上帳は、請求書等控えを基礎にして作成しており、請求書等控えがないのに売上帳に記帳されることは絶対になく、請求書等控えは本訴ですべて提出している旨の供述部分があるが、甲一一号証の一ないし二四、一二号証の一ないし一〇二及び一三号証の一ないし一七八によれば、売上帳に記帳されているにもかかわらず、請求書等控えの提出がないものもあり(昭和六一年分の赤帽竹丸急送との取引に係る分、昭和六二年分の日本ケミテック株式会社との取引のうち、同年一〇月一九日及び同月二二日の売上に係る分、昭和六三年分の有限会社北条運送との取引のうち、同年八月分の売上に係る分、昭和六三年分の株式会社盛装との取引のうち、同年八月一五日の売上に係る分等)、請求書等控えがありながら、売上帳に記載されていないものや提出された請求書等控えの売上金額の合計が売上帳に記帳された金額及び原告主張額と必ずしも一致していないものもあることが認められ、右供述部分は直ちには信用できない。

そして、甲一三号証の一ないし一七八及び弁論の全趣旨によれば、原告提出のスポット伝票控えには、一連番号が付番されているものがあるところ、本訴において原告が提出しているスポット伝票控えには一連番号からすれば欠番があり、未提出のものがあることが認められる。原告本人尋問の結果中には、未提出となっている部分は書き損じか何かの分であり、その部分はスポット伝票綴りに残っている旨の供述部分があるが、右欠番部分が単なる書き損じであるか否か、書き直されたものがすべて本訴において提出されているか否かは必ずしも明らかではなく、また、昭和六一年三月一八日付けの一連番号が六〇一五のスポット伝票と同月二九日付けの一連番号六〇一七のスポット伝票との間及び同年五月一七日付けの一連番号六〇二六のスポット伝票と同月二二日付けの一連番号六〇二八のスポット伝票との間には、それぞれ五枚分の伝票が破り取られた痕跡があり、右スポット伝票が三枚複写のものであることからすれば、この間にそれぞれ欠番となっている一連番号六〇一六及び六〇二七の伝票が存在していたことがうかがわれるのであり、原告の右供述部分は直ちには信用し難い。

さらに、原告は、昭和六二年分の取引に係るスポット伝票としては、六〇二二七から六〇二四九まで及び六一〇〇一から六一〇四五までの一連番号が付番された伝票を提出しているが、乙三三及び三四号証によれば、赤帽南葛急便の記名印と商号判が押捺され、かつ、原告提出に係るスポット伝票と同様式である株式会社シオザワとの取引に係る昭和六二年五月二三日付け(番号六二二三二)、同年六月二四日付け(番号六二二四三)の請求書及び領収書並びに有限会社小林金型大成工業(以下「小林金型」という。)との取引に係る同年七月一五日付け(番号六二二五六)、同月二〇日付け(番号六二二五七)の領収書が発行されていることが認められる。

この点に関し、原告本人尋問の結果中には、小林金型との取引に関しては、原告が臨時に雇っていた吉田という者に一人で処理させたものであり、実質的には名義を貸したものにすぎない旨の供述部分があるが、右吉田が受領した売上金の入金が全くなかったかどうかはその供述からは明らかでなく、また、甲一一号証の一四によれば、昭和六二年七月一五日付けの取引に関しては、売上帳に記載してあるのであるから、右供述部分は直ちには信用し難い。また、少なくとも、右事実によって、原告が本訴において全く提出していない六二〇〇〇番台の一連番号が付番されたスポット伝票が存在することがうかがわれるというべきである。

以上によれば、原告が提出する売上帳は、すべての取引から生じたすべての売上が漏れなく正確に記載されているものとはいい難く、また、その提出に係る請求書等控えも本件係争年分の取引に関して作成されたすべてのものが提出されているとはいい難い。

なお、原告は、本件係争年分の金銭出納帳を証拠として提出しており、甲二五号証中には、金銭出納帳には、現金分の収入についてはすべて記帳されており、記入漏れ等はない旨の記載部分がある。しかしながら、甲四ないし六号証によれば、昭和六一年分及び昭和六二年分の金銭出納帳には、銀行振込や小切手入金により運賃収入を回収した場合の取引についても記載されている一方、昭和六三年分の金銭出納帳には、そうした記載がなされていないなど、一貫しておらず、また、その記載には、原告主張額と必ずしも一致しない部分もあり、右記載部分は直ちには信用できない。

したがって、原告提出に係る売上帳等の証拠をもって、原告主張の収入金額が原告の総収入であると認めるに足りないというべきである。

(四) そして、原告は、その主張する必要経費と収入との個別具体的な対応関係については何らの立証をしていないから、およそ、前示した対応関係の立証をなし得たということはできない。

2  したがって、原告の総収入金額及び必要経費についての実額の主張は、その余の点について判断するまでもなく、これを採用することはできないというべきである。

四  結論

以上のとおり、本件推計課税においては、推計の必要性及び合理性が認められ、本件各更正の事業所得金額は、右推計により算出した本件係争年分の事業所得金額(前記二の3(二)のとおり)の範囲内である。したがって、本件各更正には何ら違法な点はなく、また、これに基づく本件各賦課決定にも何ら違法な点はないから、原告の請求はいずれも棄却すべきこととなる。

(裁判長裁判官 秋山壽延 裁判官 竹田光広 裁判官 森田浩美)

別表一 本件課税処分等の経緯

昭和六一年分

別表二

昭和六二年分

別表三

昭和六三年分

別表四(その1)

別表四(その2)

別表 五の一

昭和61年分同業者率算定表

別表 五の二

昭和62年分同業者率算定表

別表 五の三

昭和63年分同業者率算定表

別表 六

課税所得金額等一覧表

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